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-Pan's Labyrinth- by Guillermo Del Toro

幻想的なイメージのポスターだからでしょうか、劇場にはカップル連れが多かったです。
デートで観に行くような映画じゃないと思うんですけどねぇ。
現実世界に絶望している少女オフェリアがおとぎの国で永遠の命を得ようと過酷な試練に立ち向かうダーク・ファンタジー。残虐な独裁政権がはびこる現世と不気味な魔物たちが蠢く地底の国。どちらも底なしに暗くて希望が持てないように思えるのですが、オフェリアは盲目的にパンの迷宮めざして突き進む。果たして彼女の運命は...!?
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邦題 『パンズ・ラビリンス』 2006年:メキシコ・スペイン・アメリカ
監督 ギレルモ・デル・トロ
出演 セルジ・ロペス、 ダグ・ジョーンズ、イヴァナ・バケロ


1944年のスペイン。オフェリア(イヴァナ・バケロ)は母カルメンの再婚相手がいる森の中の軍キャンプ地にやって来ます。内戦で夫を亡くしたカルメンはヴィダル大尉(セルジ・ロペス)に見初められ、大尉の子どもを宿して臨月。妊娠してから体調が思わしくない彼女にとって、山中で生活するのは危険なことでしたが、新しい夫の方針に従わざるを得ない。しかも、大尉は生まれて来るのは男の子だ、と勝手に決め込んでいました。
オフェリアは母の再婚相手がどうしても好きになれない。自分を明らかに邪魔もの扱いだし、母親さえもあまり気遣っていないように見える。まさに、自分の子どもを産んでくれる道具としか見てないような。夢見がちなオフェリアは、現実を受け入れられないまま、ますます絵本の中の世界に没頭するようになっていく。森の石塚の中に彼女は見たこともないような不思議な昆虫を見つけます。カマキリの変形バージョンのような空中を飛ぶその虫は実は妖精。
その妖精に導かれるようにして、オフェリアは庭の奥にある洞窟の入り口へと入ってしまう。そして、そこにはヤギの頭と身体をした怪物がいました。彼は地底の王国の番人であり、王国のプリンセスが帰って来るのを待っていました。

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「昔むかし、地底の王国で暮らしていたプリンセス、モアナは地上の世界に憧れるあまり、この世界を飛び出してしまいました。地上に出て人間になったモアナは今まで感じたことのない痛みや苦しみを知ることとなり、死んでしまったのです。しかし、残された王様とお后は人間に生まれ変わったモアナがいつかはこの地底世界に戻ってくると信じて何百年も待ち続けているのです。あなたは、モアナに違いない。あなたの左肩にある痣がその証拠だ。」

この半分ヤギの姿をした生き物はパン(ダグ・ジョーンズ)。
無知な私は、このキャラが何なのかわからなくて、キリスト教でいう"サタンの化身"かな?なんて思ってました。星座の世界ではお馴染みの牧羊神だったんですね。パンはギリシア神話に登場する神の一種。一般的には繁殖と全宇宙の神とされていますが、その姿のとおり、牧羊と羊の神と認識もされていますね。ヘルメスとニンフ、ドリュオプスの間に生まれましたが、山羊の角と脚をもった奇怪な姿に母親は逃げ出してしまいます。父のヘルメスがオリンポスの元に連れて行き、神の称号を授かったとされています。
"繁殖の神"と言われているように、パンは好色で絶倫。ニンフのシュリンクスに心を奪われますが、その醜い容貌のため、シュリンクスはパンから逃れるためにバラの茂みに姿を変えてしまいます。それに腹を立てたパンは、そのバラの茂みを切り取って笛にしたと伝えられています。その次に夢中になったニンフ、エコーもパンから逃げ回ったため、パンはエコーの身体をバラバラにして、世界中にばらまいたと言われています。日本でいう"木霊"のエコーはこのエピソードから生まれたのだとか。性格が醜悪で時として手に負えないパン。キリスト教でサタン(悪魔)の化身が羊のような角を生やしているのも、パンのイメージから起因しているのでしょうね。
あまり評判が思わしくないパンですが、お茶目で悪戯好き、という一面も。この映画の中では、悪戯好きの彼が現実世界に目をそむけて、お伽噺に埋没しちゃってるオフェリアをからかって、「あなたがプリンセスだ」と、かつぐ設定になっています。
そしてオフェリアが俗世間に染まりきっていないかどうかを確かめるために、次の満月までに果たすべき3つの試練を課すのですが、疑うことを知らない彼女はその特命を果たそうと命懸けで挑んでいくんですね。何とも健気、何とも痛々しい。
そのうちの一つが 「恐怖の怪人ペイルマン」です。オフェリアはこのペイルマンの時に、パンから下された言いつけを破ってしまい、その結果、妖精が2匹死んでしまいます。パンは約束を守らなかったことに腹を立て、「お前は地底の王国に帰ることはできない。お前は人間として、その人生を終えるのだ」と非情にも通告されてしまいます。

この映画を観た者なら、「オフェリアよ、そこまでして、"パンの迷宮"に行きたいのかい?」と思ったはず。だって、パンが案内する異次元世界はグロテスクな巨大ガマガエルとか、おっかないペイルマンがいたりして、ちっとも楽しそうに見えません。
しかし、本当に怖いのは地底世界ではなく、暴君ヴァイダルが君臨する出口なしの乱世なのかも知れません。ヴィダルは病気の妹のため兎狩りをしていただけの何の罪のない農夫親子を惨殺(割れた酒瓶で青年の顔を潰した!)してしまうし、影で暗躍するゲリラ隊の一人を拷問にかけたりします。その拷問の場面は直接は出て来ませんが、最初は金槌、次に大きな鋏、そしてナイフを出して来て、これらの道具について説明するんですね。ここの場面が一番怖かったかも。
映画を観て楽しむどころか、見ていて胸が苦しい、という感じなのです。映像の質感はどんよりと重く、大尉の暴走は加速する一方。状況がどんどん悪くなる一方で、ゲリラ活動をする人々の姿がクローズアップされて来て、暗闇の中に一筋の光が見えて来た?ってな展開にはなるんですが、この女の子、最後はどうなるんだろう?ってそればっかり考えてました。自分的には、いかにも胡散臭いパンなんか相手にしないで、現実を見据えて欲しい、と思ってました。どちらを向いても地獄。どうせなら現世を生き抜いて欲しい。

この映画で印象に残っているアイテムと言えば『マンドラゴラ(Mandragora)』という、赤ん坊のような形をした球根でしょうか。母カルメンの体調が悪くなる一方だった時に、パンがオフィリアに差し出したのがこれ。新鮮な牛乳を張ったボールに、このマンドラゴラを浸し、生き血を数滴たらしてベットの下に隠して置くと良い、と指示を受け、母は元気を取り戻します。
この人間になりたかったマンドラゴラ、日本では恋なすびとも呼ばれ、旧約聖書にも登場しています。古くは呪術や錬金術に使われた貴重な材料とされ、これを地面から引っこ抜く際にあげる悲鳴を聞くと死ぬ、と言われていたため、犬に引っ張らせて人間は耳栓をして聞かないようにして採取したとか。「ハリー・ポッター」にも出て来ました。
しかし、このマンドラゴラがヴィダル大尉に見つかってしまい、母はマンドラゴラを暖炉の火に放り込んでしまいます。「オフェリア、魔法なんて存在しないの!」
その直後、母の容態が急激に悪化し、男の子を産んで命を落としてしまう。
自分は完全に見放された、と思っていたオフェリアの元に、再び姿を現すパン。「もう一度だけチャンスをやろう。満月の夜に、お前の弟を連れて来るのだ。これが第3の試練だ。」
果たして、オフェリアは地底王国のプリンセスになれるのでしょうか?
このラストはある意味ハッピーエンドです。暴君ヴィダルはゲリラの銃弾に倒れ、恐怖政治は終わります。でも、哀れなオフィリアの運命は...。とにかくハリウッドスタイルのハッピーエンドとは趣が大きく異なります。

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これは、特殊メイク中のペイルマン。パン役のダグ・ジョーンズは一人二役でペイルマンも演じてます。素顔はこんな感じなんですね。
ダグさんの公式サイトも見つけました。↓
The Official site for Doug Jones on the web

監督のギレルモ・デル・トロはメキシコ人。初めて聞く映画作家だと思ってたら私、「デビルズ・バック・ボーン(2001年)」観てました。そう言えば確かにテイストが似ている。ミラ・ソルヴィノ主演の「ミミック」も彼の作品だったんですね。「ヘルボーイ」も代表作のようですが、あまり興味が惹かれなくて未見です。でも、この人の映画はもっと見てみたいですね。

official site (英語) Pan's Labyrinth
オフィシャル・サイト (日本語)パンズ・ラビリンス
by marikzio | 2007-10-22 21:25 | Movie | Comments(0)

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