-哀しみのベラドンナ- by 山本暎一
1973年、虫プロダクション製作。
中世フランスのとある農村を舞台に、夫を救うために"魔女"として生きることを選んだジャンヌの数奇な運命。原作は歴史学者ジュール・ミシュレの「魔女」。
深井国の独特の画風と過激なエロティシズム描写。まさに、エロスとアートが一体となった画期的な「大人のためのアニメーション」で、今でも古さを感じさせません。
思わず赤面してしまうようなエロチックな場面がさらりと描かれていて、30年以上も前の作品とは思えないような新鮮な魅力があります。

晴れて結ばれたジャンとジャンヌ。この村のきまりとして、結婚したら領主に祝いの貢ぎ物をしなくてはなりません。貧しいジャンはたった1頭しかない雌牛を売った持参金を手にジャンヌとともに領主の元へ。「それだけでは足りない」と非情に宣告されてしまいますが、若い二人にとってはこれが精一杯であり、「どうかご慈悲を」と奥方の足元に跪くジャンヌ。
「その女、操は正しいか?」奥方の不気味な微笑み。
「愛する夫のためとあらば、どんなことでも耐えるであろう」とばかりに奥方は貢ぎ物の代わりに、まずはジャンヌを領主に差し出し、領主が賞味した後で、家来達に愉しませることを命じます。夫のジャンは家来たちに羽交い締めにされ、城の外へ。
そしてジャンヌは領主に犯されたあとで、ハイエナのように群がる男たちの餌食となってしまうのです。

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泣きじゃくる妻を抱きしめ、ジャンは「早く忘れよう」と諭しますが、無意識に彼女の首に手をまわしている自分に愕然とします。全てを忘れ、新しい生活を始めるには二人はあまりにも傷ついてしまったのです。

b0069502_221423.jpg「私はもう笑うことはない」そう思いながら、生活していたジャンヌのもとに、ある不思議な珍客が。
「私があなたを呼んだのですよ。」
男性生殖器のような姿をした、小さな客の正体は実は悪魔。彼はジャンヌの心の叫びを聞いてやって来たのだと言う。
「私は何だってできる。あなたが私と組めば、あなたの主人を助けることもできる。」
小さな悪魔の力を借りたジャンヌ。彼女の紡いだ糸はいい値段で売れ、村人の誰も収めることができないほどの高い税金をジャンだけが払うことができた。そのため、ジャンは税金を取り立てる役人として出世。
そして、夜になるとだんだん肥大化してきた悪魔がジャンヌの寝床に現れ、彼女の身体を求める、という悪夢にうなされるようになります。
「フフフ、お前の苦しみはまだ、これからだ。」
そう、まさにジャンヌの苦しみはまだ始まったばかりだったのです。

それから、しばらくして戦争が始まりました。
戦争にはお金がかかる。よって、ジャンはより多くの税金を取り立てなければならない。しかし、ただでさえ貧乏な村人たちにはこれ以上の税金など払えるはずもありません。
何が何でも税金を取り立てることを忘れさせないために、領主はジャンの手首を切り落としてしまうのです...。
窮地に立たされ、ついに悪魔に身体を許したジャンヌ。次の日、緑色の服を着て、隣町の高利貸し屋のところへと出かけて行きます。緑は王者の色、悪魔の色。
悪魔の力で信じられないほどの大金を工面することができたジャンヌは、今度は自分が金融で成功し、領主の奥方とほぼ同等の地位を得るまでになります。
「あの女には悪魔が憑いている」誰もがそう囁きましたが、今やジャンヌの力と信用は絶大なもの。彼女なしには村の秩序が成り立たず、奥方は自分の存在が脅かされていることを意識しないわけにはいかなくなったのです。

戦争が終わり、領主が村に凱旋しました。
広場には奥方の他に、今や重要な有力者となったジャンヌの姿が。しかし、日頃からジャンヌに敵意を抱いていた奥方の小姓が、公衆の面前でジャンヌの緑の服を切り裂き、「この悪魔つきめ!」と叫んだことをきっかけに、ジャンヌは村人たちに追われることになってしまいます。
命からがら逃げ続け、自分の家までたどり着いたジャンヌを夫のジャンは見て見ぬ振りをし、彼女を締め出してしまったのです。
ジャンは強姦されようとしている妻に何もしてやることができなかった。そんな夫のために、ジャンヌは悪魔と関係を持ち、彼の窮地を救ってやったのに、夫は自分の身を守るために、妻を再び見放してしまう。

全てを失い、行き場のなくなったジャンヌ。
逃亡の果てに荒野を彷徨う彼女の前に、巨大な存在となった悪魔が現れ、彼女の前に立ちはだかるのです。
「私はお前が生まれた時から、ずっとお前を見つめてきた。お前の心に宿る邪悪な心とその美しい肉体をずっと欲していた。」
ジャンヌの身に起こった数々の出来事は、彼女がその手に落ちるために、悪魔が仕組んでいたことだったのかも知れません。
「我妻よ、お前の望みは何だ?お前は何をしでかしたい?」
「悪いことがしたい。悪いことなら何でも」
そして神よりも美しい魔女が誕生するのです。

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"べらどんな(bella donna)"とはイタリア語で「美しい女」。ヨーロッパ〜西アジア原産の薬用植物で、猛毒性があります。中世ヨーロッパではハーブの知識に精通している女性は魔女と言われた、というお話もあるそうなので、村でペスト(黒死病)が流行し、病に倒れていくなかで、魔女となったジャンヌがこのベラドンナを用いて、病気の村人を治すというエピソードはそれに由来しているのかも知れません。
ジャンヌが再び彼らの尊敬を集めるようになり、彼女を脅威に感じた領主はジャンにジャンヌを城に連れて来るように命じるのですが...。

『哀しみのベラドンナ』は劇場公開時、リバイバル公開時、ビデオリリース時など何度も手を加えられているそうです。
ラストの「ジャンヌ火刑シーン」では、群衆の中に悪魔が立ちはだかって高笑いする、という終り方だったのが、国内公開に先駆けてベルリン映画祭で発表された時に、このラストが不評だったので、最終的には、焼け死んだジャンヌの魂が人々の心に広がって、後に革命が勃発する、という結末になったり、1979年のリバイバル上映では、婦女子に配慮して、過激な場面を削除した「女子大生バージョン」が公開されたりしています。現DVDは削除された部分が復元されています。

しかし、こうして見ると悪魔が言うような「ジャンヌの心の中の邪悪な部分」とかジャンヌが望んだ「わるいこと」って、どこにもありませんよ。ジャンヌのしたことって、むしろ人道的に正しいようなことばかりで、暴君のもとで抑圧されて生活している村民に自らを解放して生きることを教えているわけです。夫や村人たちに裏切られたにもかかわらず、変わらぬ愛情で彼らを受け止める慈悲深き女は魔女というよりも聖母に近い。彼女の前に現れた"悪魔"だって、本当に悪魔と呼べるのかどうか怪しいし。
ストーリー的には淡々として、1時間以内で終ってしまえそうな内容なのですが、ジャンヌが悪魔と交わるところ、村人たちの乱交シーン、炎の前で踊るジャンヌなど、前衛的なイメージと音楽が延々と続いて無駄に時間を稼いでいる、という気がしました。個人的にはなくても良かったのに、と思います。

声の出演は長山藍子、中山千夏、高橋昌也ほか。
主題歌を阿久悠、小林亜聖が書いているみたいですが、これは、いかにも"あの時代の歌謡曲"という感じです。私は劇中で、中山千夏が歌っている「青い鏡の中で」という曲が結構好きです。
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by marikzio | 2006-12-03 20:24 | Movie | Comments(5)
Commented by Rimbeau  at 2006-12-04 22:17 x
別に悪いことしてないのに
むしろ良いことをしてるのになぜ火あぶりなんでしょうね?
まるでジャンヌ・ダルクみたい。(役名もジャンヌだし。。。)

ジャンヌの声は長山さん?それともじゃりんこチエさん?
そして前衛的なイメージってのにそそられます♪

濃い記事ありがとうございます!
朝早くに起きて読んだのですけど
じっくり読んでからコメントしようと思いまして
何度も読み返した私。

おかげで見たような気分になれました☆
DVD買うべきなのかどうなのか???

Commented by marikzio at 2006-12-04 23:06
領主の手に追えなかったペスト患者をジャンヌは治療することができたので、村を守るために、自分たちにジャンヌのその力を貸して欲しい、お前の欲しいものなら何でもやる、と持ちかけたのですが、ジャンヌは「この世のすべてが私は欲しい」と言ったので、「火炙りだーっ!!!」という展開になったわけです。
「この世のすべて」って漠然とした答えだと思うんですが...。彼女の力を恐れ始めた領主は最初から、殺そうと思ってたみたいですが。
あの時代の処刑って、犯罪を犯したから、というより政治的に影響を及ぼしそうで危険だから、って理由もありましたよね。イエス・キリストもジャンヌ・ダルクも。

ジャンヌの声は長山さんです。
濡れ場が多くて、あの時代の女優さんとしては、やりづらかったと思うのですが、なかなか色っぽいですよ。チエちゃんはナレーターです。
DVDって、物にもよりますが、一度見てしまうと、あとはなかなか見ないですよね。(苦笑)
ミレーヌ・タイフーンが鎮火したところで考えてみてもいいと思います。
Commented by marikzio at 2006-12-05 11:20
追記!
"前衛的イメージ"ってのはサイケな感じなんですね。いかにも、あの時代って感じです。
あと、中山千夏さんって、じゃりんこチエの声やってたんですか?
Commented by Rimbeau   at 2006-12-05 22:46 x
http://www.futabasha.co.jp/chie/anime/frame.html

↑そうなんですよ~!

大阪人の私にとって、彼女はチエちゃんのイメージが強いので
どんなナレーションされてるか気になります!

サイケなのですね!
なんだかイメージがわいてきました。
(色使いとかが言われてみるとLove&Peaceってやつ???)
Commented by marikzio at 2006-12-06 09:32
私はこのアニメで中山さんの存在を知ったのですが、70年代のアイドルだったそうですね。劇中の中で流れる彼女の歌もいいですよ。

チエとベラドンナ、確かにギャップが大き過ぎて、大阪人には興味深そうですね。
やっぱ買うべきなのか?DVD。(笑)
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