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The Hotel Chelsea (その1)

チェルシー・ホテルは、その名を世間に轟かす三人組の建築家、ヒューバート、ピアソン、フードレスらによって1884年に建てられた。三人の紳士は、ニューヨーク中でもっとも洗練された集合住宅を造ろうとした。正面に錬鉄製のバルコニーを配した赤煉瓦造りで、アン女王朝風とフリー・クラシックの様式をとりいれたヴィクトリアン・ゴシック朝。それぞれのアパートメントは七室以上ある大きなもので、入居者は好みの仕様でスタジオを造ってもらうこともできた。天井は高く、壁は耐火防音設計で、ロビーから屋上までは、錬鉄の支柱がついたマホガニーの手すりのある鉄製の狭い階段が続いている。

「チェルシー・ホテル」 フローレンス・ターナー 中川晴子 富永和子 訳 

The Hotel Chelsea (その1)_b0069502_1621149.jpg各アパートメントには暖炉があったり、屋上にはニューヨーク初の庭付きペントハウスがあったりなど、建設当初は超モダンな高級住宅だったホテル・チェルシー。
しかし、時代の流れとともに、宿泊向けの部屋に改造されて、ホテルとアパートメントの2つの機能を持つ施設として、存在しています。

このチェルシー・ホテルが伝説的存在になったのは、世界中の芸術家(ミュージシャン、画家、作家など)が好んでここで生活したり、常宿にしていたからです。
実はいつも酔っぱらっていた作家のオー・ヘンリー(『最後の一葉』で有名ですよね)が、毎回違う偽名で、宿泊して創作活動をしたとか、『2001年宇宙の旅』のアーサー・C・クラークがここで脱稿したとか、スタンリー・キューブリックが映画制作のため、彼と共同作業するために、ここに滞在したとか、ミステリー作家のパトリシア・ハイスミスが一時期、ここの住人だったことがあり、誰とも交流せず、ひっそりと暮らしたとか、アンディ・ウォーホールもここに引っ越して、映画『チェルシー・ガールズ』を撮影したとか、あまりにも有名なシド&ナンシー事件など、エピソードを挙げたらキリがありません。
宿泊したミュージシャンとしては、ジミ・ヘンドリックス、ジョ二・ミッチェル、マドンナ、ボンジョビ、他多数。ゲイのフォトグラファー、ロバート・メイプルソープが住み、女優のイザベラ・ロッセリーニが滞在し、俳優ではイーサン・ホークが元妻のユマ・サーマンをヒロインに『チェルシー・ホテル』を撮影し、今も住んでるとかいないとか。
とにかく、映画好き、音楽好き、アート好き、はたまた、ただののミーハー者にとって「生きてるうちに一度はそこに身を置いてみたい」と切望してやまない聖地なのです。
そう言えば、イエローキャブのアイドル、雛形あきこさんもここで写真集を創ったんですよね...。

しかし、御歳122歳になる、このチェルシー・ホテルは老朽化も激しく、私がタクシーでフロントに到着した時は、修復工事中でした。ちょっと残念。
いかにも年季入ってそうな、玄関のガラス扉(このドアがまた古くて、ちょっと安っぽい)を引いて、中に踏み込むと、そこは金色がかった別世界が。
「とうとう、来ちゃった。」
ネットで何度か見かけたことのあるロビーの光景だけど、実際に自分の足でその場に立ち尽くしてみると、やはり感激が違います。

フロントで自分の名前を告げ、クレジットカードの番号を確認します。
「通りに面した部屋がいいか、裏側の部屋がいいか?」と聞かれたので、道路側の部屋を希望しました。
おじさんが私の荷物を持ってくれ、407号室に案内するため、いかにも使い込んだ感じのエレベーターの中へ。
「ここは初めて?」と聞かれたので、「YES」と答えると、「きっと気に入るよ。バルコニーがついてるんだ」と言うので、期待が高まってしまいます。
「wonderful!」と口にするワタクシ。

もっと複雑な造りになっているかと思ったのですが、二つの棟の間にちょっと狭い階段があって、その階段が1階から10階まで続き、吹き抜けになっている、というシンプルな構造でした。しかし、部屋数は相当あるようです。
写真のように、階段の壁には前衛的な絵画が延々と続き、まるで美術館のようです。

ここは、自分の部屋があるフロアの入り口前の階段ですね。↓
The Hotel Chelsea (その1)_b0069502_16542818.jpg

The Hotel Chelsea (その1)_b0069502_1764657.jpg

他の方のブログで、「迫ってくるような独特の暗さがある。」と書かれてあったりしたので、もっと、どんよりした雰囲気を想像していたのですが、私がホテルに到着した時は、まだ日が明るく、廊下もハウスキーピングのおばちゃん達が行き交っていたので、それほど陰気臭さはありませんでした。しかし、それは最初だけで、夕方になって影が濃くなるにつれ、自分の部屋のフロアにある絵画がかなり不気味なモノばっかりである、ということに気づかされることになるのです...。

The Hotel Chelsea (その1)_b0069502_1724276.jpg前衛的作品は、階段だけじゃなく、客室のフロア一つ一つに飾られ、個性的なディスプレイがいたるところに見受けられました。これはまだ可愛いのですが、悲しげな花嫁らしき女性の絵がデカデカと掲げられている部屋もあり、「自分ん家の前にこんな重苦しい絵があったらイヤだなぁ」と思ってしまいました。
住居部屋の前は小部屋になっていて、その小部屋の中に自転車が置かれてあるのが見えました。その部屋もまた、派手な絵とか写真が飾られているんですね。あくまでも、半開きになっていたドアから見えたのですが。

個性的、と言えば「宿泊客や住人は風変わりな人ばっかり(自分もか)」なことで有名なチェルシー。旅行者はそれほど変わってる風には見えませんが、エレベーターに乗った時に、ストレートロングでサングラスをかけた黒人女性が一緒に乗ってきたと思ったのですが、横目でチラッと盗み見した結果、実は男性であることがわかりました...。
でも、どなたも感じ良く挨拶して下さって、そんなに嫌な印象はなかったです。
住んでいる方が語る、チェルシーの魅力として、「ここの住民はみんなフレンドリーで大家族のようだ」と言われていますが、変わり者同士、ある独特の寛容さと包容力でもって一種の共同体を作り上げているようです。

しかし、この写真から見ても、相当古いことがおわかり頂けると思います。
「どーか、変なモノが写っていませんよーに」と祈りながらシャッターを切っていました。(笑)
旅行者なのか住人なのかわかりませんが、子どもさんの姿も見かけました。う〜ん、自分が親だったら、こういう環境で子どもを育てたくないなぁ。年端もいかないお子さんが、こういうところにいるなんて、情操教育的にどーなんでしょ?
こんな恐い顔をしたおじさんの写真を見たら、夜寝られなくなっちゃいそうです。
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それにしても、手すりの錬鉄の美しさといったら!
当時、最先端と言われた建物はすっかり古ぼけ、時代遅れになってしまった感じがありますが、これだけは相変わらず輝きを放っています。上から見上げても下を見下ろしても、その美しさに見入ってしまいます。
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屋上まで延々と続く黒い階段。
10階まで昇って行ったところで、従業員のおじいさんに、屋上には出られないと注意されてしまいました。残念。
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映画『レオン』でナタリー・ポートマンがこの手すりに腰かけて、階段を昇ってくるジャン・レノを見下ろすシーンがありますが、私に、そのような芸当は恐くてできません。
ホントに自殺しようと思えばあっさりできそうな高さです。1974年から、ここに住んでいるという、Dee Dee Ramone氏は、9階フロアから飛び降りた女性の自殺現場に居合わせたことがあったそうです。窓から飛び降りたのか、階段からなのかわかりませんが...。それをネタに本に書いたりしている氏も氏ですね。

参考ページ Cauldron Of Creativity でバルコニーに立つ男性の写真をクリック。

ひととおり館内を巡った後で、エントランスの写真を撮らなくちゃ、と思った私はロビーまで歩いて降りようと思いました。しかし、1階まで降りても、ロビーに続く廊下がない!
「どう行けばロビーに出られるんだろう?ここの階段かな」とりあえず、小さな階段を見つけたのですが、この階段は地下に続いていて、ある部屋のドアに行き当たりました。その部屋からは笑い声が聞こえてきて、誰かが住んでいるようなので、違いました。それにしても、チェルシーったら、どんな小さな通路にも壁にもいちいちヘンテコな絵が飾ってあるのね。(^.^;)
正直言って、傑作なんだか駄作なんだかわからないものもあります。

それにしても、どうしよう。このままじゃ、ロビーどころか外にも出れないよ〜っ。早くもmarikzioはホテル・チェルシーに幽閉されちゃったのか!?
再び、1階フロアに降りると、清掃係のおじさんに遭いました。
「君は何を探してるのか?」と聞かれ、「エントランスです。」と答える私。
「エントランスなら、ここを行って、うんたらかんたら...」とジェスチャーで教えてくれたので、再びトライして見ることにしました。しかし、おじさんが言うようなロビーへと続く通路なんて、ないじゃないか。うぇ〜ん。
あちこち歩き回って、再び、そのおじさんに出会ってしまいました。
「やっぱり、わかんないですぅ。」
そうするとおじさんは、私の手を引いて、従業員が使うような階段に続くドアを開けました。
「まさか、こことは」、と思うような小さくて狭い非常口のドア。
そこの階段を降りて行くのですが、そのおっさん、私の腕を脱臼しそうなほど高々と挙げるのです。いくら狭いからといって、何も脱臼するぐらい腕を掴まなくたっていいじゃないかっ、と思ったのですが、今の自分には黙々と階段を降りることしかできません。しかも、この階段、「一体いつまで続くのか?」と思うほど続いていて、ほんとにロビーに出れるのか不安になって来ました。こんな狭くて薄暗い階段を言葉も通じないおじさんと二人きり、何かされそうになっても逃げられそうにありません。
ようやく階段は終わり、これまた暗くて小さいドアに突き当たりました。ドアを指さすおじさん。
彼に背中を押されながら、ドアを開けると、先ほど見たフロントが現れました。「ああ!助かったぁ」
「Thank you!」彼にお礼を言って、フロントに出ようとすると、再び私の腕を引っ張るおじさん。
「?」
何だかんだと言ってくるのですが、語学力がないので、何を言ってるのかワカラナイ。しかも、さっきの小さい階段に引き込んで「アンタはどこにliveしてるんだ?」みたいなことをしきりに聞いてるようです。私はここの住人じゃないってば。
あ、でも英語表現的に"live"は"stay"と同じ意味になるんだったっけ?
部屋の鍵を見せて「407号室」とだけ答えながら、この人に部屋番号を教えていいんだろうか?と不安になるワタクシ。
しかし、とにかく、そのおじさんから離れた私は、無事にエントランスの写真を撮ることができました。あとで、エレベータの"L"(Lobby)を押しさえすれば、迷うことなくロビーに到着できることがわかりました。
The Hotel Chelsea (その1)_b0069502_18263246.jpg

私は中央の馬の絵に一番心惹かれます。
天井からぶら下がっている女の子は顔が恐かったです。地震でも起こったら、真っ先に落ちて来そうです。
私が宿泊したお部屋については次回に。(それほどたいした部屋でもなかったんですが)
Commented by ○ん at 2006-08-29 22:58 x
こういうホテルの外見には、とっても惹かれちゃう○んです。もしNY行ったら、私はお向かいのYMCAですな。
NYは知らないのですが、ボストンに行ったときにゲストハウスに宿泊したら、天井は高くめっちゃくちゃ広いお部屋にでっかいベッド。調度品も黒めの木で、とっても気に入りました。ソノ後で、カップル用と知りちょっとへこみましたが・・・ 
そういえば、バンクーバーのゲイ・ストリート(正式名が思い出せない・・・)にあるバーに、上の三枚目の真ん中みたいな絵のでっかいのがたくさんあったのを思い出しました。そこ、スタッフはマッチョで優しい瞳のハンサムさん(おそらくゲイ)ばかりで、サービスもよかったのですが・・・女性の友達と行ったので、「アジア人と白人のカップル?めずらしいわね。」みたいな感じでしたが・・・ (^^;)
Commented by marikzio at 2006-08-30 11:11
一人旅だと、しょぼい部屋に通される確率が高いような気がします。(泣)
やっぱりカップル向け部屋が豪華なのは、「こんな部屋なんかにしてっ!」と気まずくなるのを避けるため?
カップル用だろうが何だろうが部屋はいいに越したことないですよ!窓を開けたら、バラックだった...、ってガッカリしちゃいますもん。

ゲイ・バーとはなかなか濃ゆい体験!そうか、この絵はゲイ・テイストだったんだ...。
それにしても○んさんてば、ホントにいろんな所に行ってますね。
今度は是非ともNYを!
by marikzio | 2006-08-28 16:30 | marikzio、NYへ行く Ⅱ | Comments(2)

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