「地球の笑いかた」 と「地球の笑い方 ふたたび」  島村麻里
1ドルがまだ300円台だった時代に洋行デビューを飾った当時10代の著者。
その頃、海外旅行なんてものは『一生に一度行けるか行けないか』に値するほどの大イベント。ところが、1ドル100円台の現在、海外旅行の持つ価値そのものが下落し、誰もが経験できる趣味の一つにしか過ぎなくなってしまった。とにかく世界津々浦々、何処でも同国人(あるいはその団体)に出くわすし、世界遺産のマチュピチュにしたってアンコール・ワットにしたって、テレビの旅行番組でお馴染の光景なので、現物を前にしたところで、それほどの感慨は湧かない。
年に3〜5回は日本を離れ、年間最低8週間は海外で過ごすことを目標にしているフリー・ライターの著者に対しても、世間の目は淡々としたもので、どこに何回行ったかなんて、何の自慢にもなりません。いろいろ自慢してやりたいことがてんこ盛りなのに、世間の風潮がすでにそうなってしまっているので、口をつぐむしかない。
そういう諸条件が重なって、ちょっとやそっとのことでは感動しないほど心がスレてしまった著者の心が向かったのは、街角に転がっている笑いのタネ、異国のおマヌケな習性、突っ込みどころ満載のガイドブックなど、『いかにして世界を笑い倒すか』に重点が置かれ、追及していくことだったのです。

「地球の笑い方」、「地球の笑い方 ふたたび」の上下2巻からなる、このシリーズはアフリカや中東を除く、世界あらゆる所に出没している著者ならではの視点やびっくりエピソード満載のエッセイ。
2001年に発刊されているため、情報的には古いものもあるのですが、『「安宿」対「大箱」どっちがホントに特なのか』(家族経営の小さな安宿はスタッフの熱過ぎる関心を寄せられたり、プライバシーの確保という概念が希薄である、など)に始まって、服装や行動パターンで出身国を見極める『世界おのぼりさんウォッチング』、激安ツアーの恐るべき実態を暴いた?『早朝着ハワイ<拷問>ツアー』、クリーンなアメリカン・イングリッシュは実は一部の地域にしか通じない、という『「ジャパングリッシュ」で大いに結構!』、『海外女ひとり旅には鉄則がある』など、トラベラーにとっては、参考になることの多い内容だったりします。

また、著者は世界各国に友人が多く、いろんなお宅にお邪魔しているようなのですが、ゲスト宿泊者となった時の心構えを指南した『「転がり込み宿泊者」の心得』、そして今度は自分が海外ゲストを迎える立場となる「日本でゲストを迎える、ホストの心得12ヶ条」は、自分が実体験することはないながら、読んでいて興味深かったです。
友人宅に泊めてもらう時は手ぶらで行くわけにいかないし、行きたくもない遊園地に連れて行かれたり、日本人というだけでご近所の見せ物にされるのにも笑顔で堪えなくてはならない。逆に迎える立場になった時は部屋の大掃除に追われ、観光案内に走り、世界一物価の高い東京でご馳走など、結果的に自分が親切にされた分以上のお返しをすることになってしまう。
しかし、異国の客たちのおろおろ、あたふたぶりがライブで見学できるのは、一回旅行に行くのに匹敵するぐらいの楽しみなんだそうです。
これぞ、まさに"Give & Take"な異文化交流!?

そして彼女は、普通はなかなか直面することのないようなハプニングを呼び込む体質のようで、初めてペルーへ行った時には「日本大使館人質事件」が勃発し、フリー・ライターということで日本の某新聞社の特報部から電話が入り、緊急現地リポートをお願いされたり(実際は取材証もなく、言葉の問題もあったので、現地取材はできなかったそうですが)、ボルネオ島に行ったら大規模な森林火災が発生して、街中が煙害で汚染されてしまった場面に遭遇しています。

それから、これはハプニングではないけれど、印象に残ったエピソードとして、ベネズエラで友人を訪ねたら、彼女の兄の家に招待されることになって、自分たちを出迎えた友人の兄が一目で、新宿二丁目でお馴染の"あの方々"と同じカテゴリーに属する人間だと感づくお話がありました。
「あ〜ら、いらっしゃい」としなを作る仕草とその後ろ姿は、まさに「世界のオカマさん、こんにちは」。笑っちゃダメだと堪えるのに必死だったのに、彼の心の美しさと家族愛の深さに胸を打たれ、不覚にもその場で号泣してしまった『ベネズエラで出会った"天国"のキッチン』。
親孝行のつもりで妹と両親を海外旅行に連れて行って、親のあまりのわがまま、傍若無人ぶりにキレそうになった『「親孝行」海外旅行はイライラ、ヘトヘト』は、一見水入らずで気ままなものだとイメージしていた家族旅行がどんなに骨が折れ、かつリスクが高いものであるかが詳細に語られています。これを読んで、迂闊に母と海外に行くものではない、と言うことを知りました。

一番大きいと思ったのは現代最期の秘境、北朝鮮ツアーのお話でしょうか。
"北"の国への観光ツアーはれっきとして存在し、毎年新聞広告にも載るのに、これを利用したことのある人はそんなには多くない。しかし、これに一度参加した人があまりのスゴさ(いろんな意味で)にハマってしまって、これは行かなきゃソン!とばかりに布教しまくり、それに渋々のせられて参加した人から聞いたお話として書かれています。
「三食+豪華ホテルの宿泊に日本語ガイドの二十四時間フルアテンド付き。ツアー客しか見ることのできないイベントが朝から晩まで目白押しで、異様なまでに充実していた。」

参加通知が届いた時点ですでにVIP扱い。ツアー客のために平壌から飛んできたチャーター機によって運ばれ、ツアーの日程は平均朝七時から夜の十一時過ぎまで、一息入れる間もなく綿密に計画されている、パスポートはすべてガイドが預かってくれるので、盗難の心配がない、など他のツアーには考えられない、想像を絶する内容なのだとか。
これ、伝聞のハズだったのに、実は熱心に布教活動をしていたのは島村さんの妹(漫画家の羽衣えるさん)で、それに誘われたのが島村さん本人とその友人(脚本家の一色伸幸さん)だったことが巻末の三者対談で明らかにされます。さすがの島村さんも「自分が行った」と書くのは憚られたのでしょうか?

この妹さんがまた、ブッ飛んだキャラクターのようでいて、なかなかの大人物。
姉に負けず劣らず旅行好きのようで、一緒に中国やインドに行った時のことが書かれています。
ガンジス川を見に行った時に、「ハロー、ハロー、ハロー」と群がってくる物売りの凄まじさに、顔も上げられず、道行く人にガンを飛ばしてばかりいる姉に対して、「何言ってるの。別に対したことないやんか」と諌める妹。ハローと近寄って来る連中には「いら〜ん」、「後でね」と軽く交わし、楽しそうに写真を撮りまくり、「ちゃんと見えてるの?中には純粋にこんにちはって言うてくれはる人もいるねんよ。しかめ面ばかりして失礼やんか」と指摘する妹さんの器の大きさに脱帽する島村さん。仲のいい姉妹で羨ましい。
その妹えるさんが、北京でトイレに入った時に掃除のオバサンにジッと見つめられ、その人の顔が自分ソックリで5秒ぐらい見つめあったと対談で語っています。そして、その話を別な人に話したら、「もっと北の山奥にそういう顔の人だらけの村がある」と言われ、今度は是非とも、その自分そっくりな人ばかりの"えるちゃん村"に行きたいと思ったのだそうです。

あと、笑ったのが『恐怖の「お持ち帰り写真」』。
旅行者が旅先で撮って来た莫大な量のスナップ写真には4パターンある、と書いています。

1.景色ばっかり写真
同じ景色をあらゆる角度から撮ったり、機内食やホテルのクローゼットまで撮っている。海外旅行ヴァージンに多い。

2.外国人ばっかり写真
現地の人を写した写真。今どき外人なんて珍しくもないのに。

3.自分ばっかり写真
いちいち観光名所で撮影した写真。なぜか、いつも同じポーズ、同じ表情。

4.自分たちばっかり写真
仲間うちの乾杯シーンや「皆でピースサイン」ばっかりで、どこで撮ったのかもわからなくなっている。

これらが分厚い束になって渡され、隣にぴったり寄り添って一枚一枚キャプションをつけられるからたまらない。最近はこれにビデオ上映会、というものが加わったので、これに突き合される側の被害は拡大するばかりである、と海外旅行のカジュアル化がもたらす弊害の一つとして皮肉を効かせているのが絶妙。そう言えば自分も飛行機の窓やレストランの食事の写真を撮ったり、記念写真の中の自分はいつも同じポーズ、同じ笑顔なんですよね...。

とまぁ、ダラダラと長ったらしく書いてしまいましたが、まだまだ紹介したかった章がいっぱいで、どこで切り捨てたらいいのか難しい本でした。
旅に関するエピソードだけでなく、外国人との恋愛願望を持つ日本人女性や、それを実現させた松田聖子とジェフ君のこととか、笑えるネタが満載です。
ガイドブック「地球の歩き方」についても「必ず気さくなオーナー、陽気なスタッフ、というフレーズが登場する」と茶化してるし、よくもこんないろんなことに気がつくものです。
そういうわけで、旅好きの人も、そうでない人にも、これはオススメの2冊です。

最期に、"硬石珈琲"。コレ、何のことかわかりますか?
"ハードロック・カフェ"のこと。中国ではこんな風に明記するんですね。
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by marikzio | 2006-08-03 21:29 | Book | Comments(2)
Commented by Rimbeau   at 2006-08-05 07:59 x
おやおやっ、また面白そうな本ですね!
読み始めた本が3冊ほどあるのですが、進み具合は超スローペース。。。
そんな中ですが、また図書館で借りて読んでみようかと思う
marikzioかぶれな日々の私。

島村さんの妹さんの肝のすわったキャラクターは私も見習いたいところです。

あ、NYに行かれるのですか?
今日、(恐らく関西ローカル)ピーターのNY旅行って番組がありますので
それを見ながらNYへ行った気分に浸ろうかと思います。

NYの3日間、水分補給をこまめに、かつ冷房病にかからないよう
ディープでコアでファッショナブルな時をお過ごしくださいね!
Commented by marikzio at 2006-08-06 17:09
帽子かぶらない人なのに、さすがに日射病が恐くて帽子買いました。あっ、でも現地調達、ってテもあったのよね。
さあ、今回の旅はどんなコトにぶち当たるのでしょうか!?

島村さんの本は長時間移動の時に向いてるような軽めのエッセイですね。思わず、ウンウン頷いてる自分がいた、って感じの本です。
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