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『ブルーピリオド』

現在、Netflixで配信中のアニメ『ブルーピリオド』。
主人公は男子高校生の矢口八虎(やぐちやとら)。金髪で軟骨にピアスという派手なルックスでちょっとガラの悪そうな友人達と夜な夜なツルんでは遊びまくるというパリピなキャラ。それでいて、常に学年で上位の成績を維持し続ける成績優秀者であり、隠キャなクラスメートとも仲良く出来るほどの高いコミュ力も持ち合わせているという、漫画の主人公にありがちな過剰積載設定なのです。
(個人的には八虎といつもつるんでいる面々がDQNっぽいのでスクールカーストとしてはあまり上位とは言えないんじゃないかと思うし、早稲田・慶応余裕で狙えるほどの学力の八虎とDQNの友人が同じ学校というのも一体この高校の偏差値はいくらなんだよ?と突っ込みたくなるんですが…)
しかし、その水面下で彼は物凄い努力家。明け方まで友達と遊び倒した朝も鞄からテキスト本を取り出す。「うちは私大は経済的に無理だからね」という家族の意向を組んで、高い学力を身につけ堅実な大学に進もうとしている。八虎にとってチャラい風を装って友達とヤンチャに付き合い、手を抜かずに勉強するのもノルマを達成するゲームのようでむしろ楽しんでやっている。しかし、心のどこかで何かが欠けていました。
周囲に愛想よく振る舞うのも勉強を頑張るのも友達や家族の為。しかし、本当に自分が心の底からやりたいと思うものに向き合えていないような気がする、そしてまだ見つけられていない。
そんな風に言葉に出来ない悶々とした思いを抱えながら過ごして来た彼に転機が訪れます。
ある日、忘れ物を取りに美術室に戻った八虎。そこに置かれていた1枚の大きな油絵に釘付けになるのです。

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その油絵は美術部員が描いたものであることを知った八虎。
今の今まで絵を描きたいと思ったこともなければ芸術全般にも興味がなかった彼ですが、その絵に何かを触発され、そして明け方に見る渋谷の風景を青いと感じたこと、それを自分なりの絵画表現で朝の渋谷の青さをどうにかして人に伝えたい、という衝動が起こります。
「美術は文字じゃない言語だから」と話す美術部顧問の佐伯先生。今まで色々なことを頑張って来た八虎でしたが、何をやってもどこか実感が持てなかった。ある意味器用貧乏とも言える。しかし、美術の授業で自分の描いた絵が初めて褒められたことで、本当の意味で誰かと対話できたような感覚を覚えます。これだ!と直感した彼は迷うことなく美術部の門を叩くことになるのです。

彼の心を打った油絵を描いたのは3年生の森先輩。「先輩って才能あるんですね」と言った八虎に対し、「絵もやり方とか勉強することがあってね。手放しに才能って言われるとなにもやってないって言われているみたいでちょっとね」と彼女は答えます。森先輩は武蔵野美術大の推薦入学を目指していました。
でも美術大って結構学費がかかるよね?それに美術大で学んだからと言って絵で生計が立てられる人ってどれくらいいるのか?そもそも絵なんて趣味で描いてればそれで良くね?食べていける保証がないなら美大で学ぶメリットって??
八虎の疑問に対して佐伯先生は答えます。「食べていける保証がないというなら他の大学も一緒。東大卒でも就職が難しいと言われている昨今では一芸持っている芸大出身者の方が有利かも知れません。好きなことなら趣味でやればいいというのは大人の言い訳。好きな事で頑張れる人は最強なんです。そして美大の学費が高いのは私大でのお話。東京藝術大学なら年間50万円くらいです」
今まで本気で打ち込めるものがなかった八虎。大学に行くなら美大に行きたい。うちは経済的に私立が無理だから東京藝大一択だ。
しかし、東京藝術大学を受験するにはいくつかの関門がある。何と言って親を説得すればいい?
そして東京藝術大学は物凄い倍率で現役生より浪人で入学しているケースの方が多い。現役で合格するにはある意味、東大入るよりも難しい。でも彼はどうしても東京藝大に行きたくなったのです。

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原作は山口つばさによる青年漫画で「月刊アフタヌーン」誌に2017年から連載中。コミックは11巻まで刊行されています。(2021年11月現在)
この作中に出てくる美術部というのがなかなかスパルタで、デッサンにおける基本的・専門的な知識、技巧がかなり出て来ます。高校の美術部って、半分イラスト愛好会みたいなところもあってここまで本格的にやらないよな〜。でもここまでガチに教えてくれるんなら私も入ってみたいですわ。この美術部員の中から武蔵美や大阪芸術大に入るという設定もまた、この高校の偏差値って一体?と突っ込みたくなります。
この山口つばさ先生は東京藝大出身者らしいです。本編の中には先生のお知り合いや学生さんが描いたデッサン画が沢山使われていてデッサン画集みたいです。
アニメには描かれていませんが、美術部の女子部員達が腐女子でこっそりBL同人誌を読み耽っているところをよりによって八虎に見つかってしまう、という書き下ろしエピソードがあります。腐女子部員たちは「終わった。社会的な死…」と思いますが、その時の八虎がまさに神対応でニクい。

八虎は芸大受験のために美大の予備校に通うことになり(そんな予備校があるなんて知らなかった!)、そこで芸術家気質の高校生や浪人生、そして一際キャラの強烈な講師大葉と出会うことになります。
大葉のかなり無茶ぶりでスパルタな課題攻撃にも負けじと必死で食らいついていく八虎。驚異的な熱量で課題を大量にこなして行きます。予備校仲間にデッサンが天才的に巧くて八虎が衝撃を受けた高橋世太介がいましたが、彼は絶望的なくらい社会性がないコミュ障でなぜかしょっぱなから八虎に喧嘩腰。八虎と世太介は反発し合いながらも、傍目からわかるほどにお互いのことが気になっているという関係性も興味深いです。八虎は世太介の才能に嫉妬しますが、世太介は友人に恵まれ、容姿も学力も何もかも揃っている八虎が美術の世界を目指すのに腹が立つようです。友達もいない自分には美術しかないのに。
原作では、八虎は目出たく合格し、晴れて東京藝術大学の学生となって、そこでも色々な壁にぶち当たっているようです。美術を通して主人公の男の子やその周囲の人々の成長が描かれていくストーリーは斬新ですね。
この作品の最大の魅力は主人公が神がかった才能を持って生まれた、という設定ではなく、経験のないところから様々な知識や技法を吸収し、絵を描いて描いて描きまくって成長を遂げていく、というところでしょうか。森先輩の「絵もやり方とか勉強することがある」という言葉に彼はヒントを得ていますね。「コツコツと努力を重ねていけば、見たいと思っていた景色に出会えるかも知れない」。そんな気持ちにさせる作品です。



by marikzio | 2021-11-23 15:53 | Animation | Comments(0)

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