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A.ピエール・ド・マンディアルグ 『オートバイ』生田耕作=訳

こんなステキな薔薇カバーで来るのをちょっと楽しみにしてたんですが....。
いざ開けてみたら、白水Uブックスお馴染みの、例の、子供の落書きみたいな鬼顔デッサン(パブロ・ピカソ作)でガックリ。まぁ、中古本だったので、しょうがないですね。

オートバイ (白水Uブックス (54))

A.ピエール・ド・マンディアルグ / 白水社



フランス文学の中で、ちょっと特異な存在だったマンディアルグの名を一躍ポピュラーにした大衆向け作品『オートバイ』。
これは1968年に映画化されていたことも過去記事に触れていました。

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「La motocyclette」のマリアンヌ・フェイスフル

ヒロインは19歳の新妻、レベッカ。夫レーモンは町の高校教師。
ある早朝、夫の横で目覚めたレベッカは夢うつつのまま、気づかれないようにそっとベッドから抜け出します。抜き足差し足でクローゼットのある部屋へ向かい、戸棚から取り出したのは黒いレーサー服。薄暮の中、物置小屋の中で彼女を待ち受けていたのは、最新型で最高速度の大型ハーレーダビッドソン。まだ眠りから醒めきれず静まりかえった町で大爆音を轟かせ、レベッカは出発します。
アグノーから国境を越え、ハイデルベルグへ。黒革スーツの下は素肌。所持金も持たないまま、女は高速道路を飛ばし、ある男のもとへと向かいます。
ダニエルはレベッカの年齢の倍以上年上の四十がらみの中年男。結婚してからも、レベッカはレーモンの不在を狙って、ダニエルに会いに行っていました。
<<レーモンのそばであたしの暮らしは石みたいだ>>
レベッカのパッションが炸裂するのはマシンをぶっとばして、風を、地面から突きあげる振動を感じる時。道路ではパッと見レベッカを女性だと気づく者はほとんどいません。みんな大型のダビッドソンに見とれ、敬意を払い、道を譲ってくれる。レベッカはそれが痛快でしかたがない。彼女にバイクの魅力、運転技術を教えてくれたのはダニエルでした。
レーモンは真面目だけが取り柄の退屈な青年。高校生は彼の授業中に、平然とピクニックの真似事をして騒いでいる始末。生徒からの苛めがひどくて、町から町へと渡り歩いて来ました。そんな旦那さんだから、うら若き女に不釣り合いなダビッドソンや皮のレーサー服を見ても、妻に何も言えない。なんで、そんな不適格教師の妻に自分はなろうと思ったのか?それはレベッカ本人にもわからない。
ただ一つ、言えるのはレーモンは限りなく自分を自由に束縛しないでいてくれることがありがたい、と言うこと。そして、ダニエルは自分を徹底的に服従させ、用済みになったら、あっさりと手の平を返すように解放してくれること。放任と服従。この両極端な状態におかれることにレベッカは取り憑かれているのです。

出発してから通りや高速道路を走り抜ける描写が延々と続きます。
燃料を満タンにしようとガソリン・スタンドに立ち寄ったものの、財布も持って来ていないことに気づいたレベッカは、自分の夫に払ってもらうようツケを頼むことや、早過ぎる時間帯のため、目的地に着く前にベンチで時間を潰すこと(時計も持って来ていなかったので時間調整に困った)、税関で係員の男にからかわれることなど、いろいろなことがあります。
「いつになったらダニエルは登場するのか?」と思って読んでいたら、ようやくレベッカが彼の山荘風の家に到着。ダニエルはバルコニーで椅子に座ったままで女を迎えます。レベッカの皮スーツのジッパーに手をかけ、下ろすところで、ベンチの上で目を覚ますレベッカ。なんだ回想シーンだったんかい。
ダニエルとの関係が始まったのは、結婚直前にヴァカンスで行ったスキー場での夜のこと。近い未来の夫レーモンとレベッカの友人カトリーヌ、そして2人の男友達はホテルのバーでお酒を飲んで大騒ぎした後(当然、レーモンはその中で浮いていた)、カトリーヌとレベッカは各自部屋へ。
レベッカは不用心にもいつもの習慣で部屋の窓を全開にし、ドアに鍵もかけずに就寝。しばらくして、部屋に入ってくる誰かがいて、レーモンだとばかり思っていた彼女はその相手が自分の体に触り始めたのに、「あの鈍くさいレーモンにもこんな大胆な一面がっ!」と驚くのです。暗がりの中、レベッカは手を伸ばし相手の髪に触れますが、その時、相手の頭頂部が薄くなっていることに気づき、ハッとします。27歳のレーモンはまだハゲではありません。

こっ、このハゲはあいつに違いない! 

...なんて発言をレベッカはしてませんが、とにかく彼女はこの瞬間に、この寝取り男が誰であるかを悟ったのです。これは、父が経営している本屋のお得意客であるダニエル・リオナール以外に考えられない。店にレベッカが居合わせた時は、店主の目を盗んで物陰でその娘に触りまくるスケベ男。そのダニエルらしき男がホテルのバーにいるのを目にしていたレベッカ(ストーカーかよっ)。抵抗しようにも時すでに遅し。第一、抵抗しようとも思わなかった、って、おいおい(汗)。
文学作品だから、読めちゃってるけど、これ実際の事件だったら非常に気持ち悪いエピソードですよねぇ。まぁ、どこかにありそうな話ですけども。映画では、このダニエルのおっさんの役がアラン・ドロンだったのがせめてもの救い。ドロン扮するダニエル氏は甘いマスクでちょっとエッチなプレイ・ボーイ(女の子の夢?)って言うキャラ設定のようですが、原作の中のハゲで毛深いダニエルは、読書好きの哲学者肌、それでいてバイク大好きのワイルドおやじで、しかも絶●(あら、いやん)、ってところでしょうか?
とっ、とにかくレベッカはこのダニエルからいろんな哲学を吹き込まれたり、バイク教えてもらったり、縛られて調教されたり、めくるめくような時間を共有するわけです。しかし、レベッカが結婚した時とほぼ同時にダニエルは隣国ドイツに移住することを決めてしまう。もう滅多なことでは会えないわけです。
ところが、そんな新婚花嫁のもとに1台の大型で最新モデルのダビッドソンが届けられました。送り主はもちろんダニエル。そう、これはまさに愛人からの花嫁道具なのです。

アグノーからハイデルベルグって、そんなに遠くはないのでしょうね。
作中、レベッカが頻繁に何度も「まだ着くには早すぎる」って、時間を稼ぐのに苦労していますから。時間潰しの為に立ち寄ったカフェで桜桃酒を何杯もおかわりし(お金がなかったのでは?飲酒運転はまずいのでは?)、その間ダニエルとの濡れ場を思い出し、白昼夢に耽るのです。
って、私がこんな風に書くと、まさに身もフタもないような作品ですが、マンディアルグはフランスを代表する一流の文学者ですから、ヒロインの心理とか情景描写とか見事です。道路事情も非常に細かくリアルに書かれてるので、ご本人は何度も行き来していたのかも知れませんね。とにかく、この作品の最大の魅力は全編に漂う香り高いエロさです(キモイと言いましたが、やっぱりいいですよ)。読んでるだけで映像が浮かんで来るような、それだけスタイリッシュな作品。
しかも、このレベッカちゃん、結局ダニエルさんのところにたどり着けないままで終わってしまうのですよ。映画はまだ見たことないんですけど、You Tubeでラストシーンを見てしまいました。衝撃的です。
『あの胸にもういちど』も観たいけど、現代版としてリメイクもして欲しいんですよねぇ。
そしたら、配役は誰がいいかなぁ?
私的にはダニエルはもうちょっと土臭くてもいいと思います。
Commented by miharu at 2010-03-20 00:07 x
この映画の最後を知っているので
見れないんです。。。
エッチだろうがなんだろうが
美しい乙女がねえ。。。ということで。
Commented by marikzio at 2010-03-21 22:58
miharuさん、こんばんは。小説では、そんなに露骨には描写されていませんが、映画の場面はキツかったですね。でも、ある意味ドラマチックではある。

オヤジ風味のドロン、観てみたいです☆
by marikzio | 2010-03-19 21:17 | Book | Comments(2)

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