「畏れ慄いて」  アメリー・ノートン  藤田真利子訳
さて、記念すべきmarikzioブログの第1弾はフランスの人気作家、アメリー・ノートン Amelie Notomb の小説「畏れ慄いて Stupeur et tremblements」を読んだ感想を述べたいと思います。
フランス語の特殊文字が文字化けするといけないので、ここでは無難に英語表記を使うことにします。
「ハネダ氏はオーモチ氏の上司で、オーモチ氏はサイトー氏の上司で、サイトー氏はモリさんの上司で、モリさんは私の上司だった。そして私は誰の上司でもなかった」
という書き出しで始まる物語のヒロインは日本で生まれ幼少期を過ごしたベルギー女性アメリー。日本のカイシャで働くことを夢見て日本語を習得し、その語学力を買われて世界でも指折りの日本の大企業、ユミモト商事に就職します。
ところが、そんな彼女を待っていたのは病んでいるとも言うべき歪んだ日本のカイシャの構造でした。
外部者の前では日本語を使うことを禁じられ、書類のコピー取りを何度もやり直され、お茶くみ以外にこれと言った仕事も与えられず、自分は一体何のために就職したのかと途方に暮れてしまいます。
アメリーの直属の上司、森 吹雪はすらりと優雅な長身の女性で、まるで「谷崎 順一郎が描写したかのような」美しい顔立ちにアメリーは見とれてしまいます。フブキはアメリーに優しく接し、偏屈者だらけのこの職場で唯一信頼できる存在だと思うのでした。
ところが、アメリーにまたとない大きなチャンスが巡って来ようとした時に、彼女にとって一番身近で友好的であったはずの女上司の態度が一変します。フブキはアメリーの好機を潰したばかりか、サディスティックなまでに辛辣な言葉を浴びせ続けるようになります。日本のカイシャという閉鎖的な空間で様々な憂き目にあいながらも、健気に向き合うアメリー。しかし、女上司の理不尽ぶりはますます加速して・・・。
神戸に生まれ、5歳まで日本で暮らしたというノトン本人が22歳の時に日本の企業でOLをしたという体験をもとに書かれたということですが、これを読んで私は少し現実離れして展開が乱暴な感じを受けました。この小説は本国フランスでベストセラーになり、フランス人が「オー、ニホンの国って、なんてコワイ所ね。ブルブル!」なんて思い込むことが容易に想像できて複雑な思いになります。
しかし、妙にリアリティーがあるのです。「これほど極端なことはないけど、これと似たような思いはしたことがある。ブラックホールに放り込まれたような、心細いあの感じ。」事実を描いてはいないが、真実を描いているような・・・。

この小説の時代設定は、1990年。バブルが崩壊し始めた頃で、男女平等のスローガンが掲げられていても、まだまだ男性優位の世界。お茶くみ係に甘んじているぶんには楽だけれど、女がある程度のポストに就くには大変な努力を要求された時代。肩ひじを張ってなければやっていけなかったのです。そうフブキのように。
私はまだその当時学生だったので、よけい内容に無理があるように感じていたのですが、14年前の日本社会はこれに近かったのかも知れません。
私はアメリーが高層ビルの窓際に立って空想の中で空中に身投げする描写が好きです。

実はこの作品はフランスで映画化されています。一般公開されていたのかはわかりませんが、日本でも2003年のフランス映画祭で上映されています。その時はもちろん見ていませんが、結局amazon.frから個人輸入してしまいました。だって、西洋人であるヒロイン以外の登場人物は全員日本人(しかもほとんどが悪者)の世界がどのように映像化されてるか気になったんですもの。
フランス映画なので、ヒロインの独白部分はもちろんフランス語だけれど、それ以外は日本語が飛び交っています。フランス語はヒアリングできませんが(涙)、原作を読んでいるし、日本語会話が中心だったのでそれほど支障ありませんでした。フランス語が全くわからなくても充分楽しめると思います。

そのうち映像版「畏れ慄いて」についてコメントしたいと思います。

と、言うわけで今日はこのへんで。
へば〜!
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by marikzio | 2004-11-21 20:59 | Book | Comments(2)
Commented by Keiko Otto at 2006-12-20 19:09 x
今年の夏からブリュッセルに住んでいます。ひとまずフランス語を習い始めて、クラスメートに借りた本がこれでした。もちろんフランス語なんだけど短編なので頑張って最後まで読みました。作者の豊富なボキャブラリーや知識に対抗するには、やっぱりある程度の分厚い辞書が必要だと思います。私は、辞書なしである程度読んでみて、それから「プチ・ラルッス」を片手に読み返しました。日本企業の保守的で不合理的な部分がかなり誇張されているんだけど、それでも怒れないで楽しめてしまう、あるいは作者と一緒になって日本人に哀れみをもってしまうのはなぜかしら。テレビで映画もやっていたけど、残念ながら見損なってしまいました。見ないほうがいいかも知れない。「午後四時の男」には興味があります。ではまた!
Commented by marikzio at 2006-12-21 17:33
keiko Ottoさん、初めまして!
海外在住とはうらやましひ...。ブリュッセルは行ったことありませんが、ヨーロッパらしい美しい街と認識しております。

「畏れ慄いて」は短編というより中編というイメージなのですが、一日で読めてしまう和訳もオリジナルでは大変だったと思います。

映画は普通に娯楽映画として楽しめますよ。
主人公のアメリはじめ、日本人の共演者も魅力的で個性豊かなキャスティングです。
その映画の出演者の方が、このブログを読んでくださってTBしてきたこともあったので、機会がありましたら、是非ともご覧になってください。
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