「黒衣の下の欲望」 マルト・ブロー 長島良三 堀内一朗 訳
2005年 08月 17日
小説「O嬢の物語」の記事はこちらですので、読んでみてください。
お盆休みも終わり、久しぶりの投稿です。
ネットカフェでブログチェックはしてたのですが、やっぱり落ち着いて書きたいものですね。
この本の著者はパリ在住で現役の女性弁護士。自らの体験を赤裸々に綴り、あの「O嬢の物語」の系譜を継ぐと言われた、フランスで話題を呼んだポルノ小説、なのだそうです。
ヒロインは30歳を過ぎたばかりの人妻弁護士。(んまぁ、なんという魅惑的なヒビキ!)
自分よりはるかに年上の夫を持ち、生まれたばかりの赤ん坊がいて、魅力的で楽しい友人にも恵まれ、完璧なはずの人生。
ところが、悪魔のような男(自分と同じ弁護士で法廷で知り合った)に出会ったばかりに、魔に憑かれたように心を蝕まれ、自分を見失って行きます。
他の男たちが決してやらないようなやり方で自分を扱う”彼”。身体的にも精神的にも屈辱的な苦痛を与え続ける彼に、ヒロインは今まで感じたことのない情熱を覚え、焼けつくような欲望を抱きます。
「もっと拘束されたい、彼が欲しくてたまらない、私こそがこの男の望みを満足させられる女なのに...。」
女占い師は彼女に忠告します。
「あなたのお友達は非常に特殊な性欲を持っている。異常で野心的で、あなたはその男の虜になっているけれど、彼はあなたに愛情を持っていない。おやめになった方がいいわ。この紳士はあなたを地獄に落とし、あなたは全てを失うことになる。一人の女性が死にます...。」
そう言われても、女は彼の連絡を身を焦がすような思いで待ちわび、体を傷つけられ、街角で下着姿で売春まがいの行為をさせられても、彼に対する欲望の炎を鎮火することができません。すでに決まった一人の女性を愛している彼に対して、嫉妬なんてしていない。私の欲しいものは...だけなのに、彼は決してそれを与えようとせず、そのため彼女は終始苦しみ抜く、というストーリー。
『満ち足りた暮らしを送っていたはずなのに、どうしてこうなってしまったのか』
う〜ん。ちょっと下らない。
「O嬢の物語」の再来、とまで言われているようですが、読む者を否応無しに幻想の世界へと引きずり込む、独特のパワーを持ったあの作品の足元にも及ばないな、というのが率直な感想です。
「O嬢の物語」のヒロインは自己を完全に放棄することによって、『孤高の精神』の域に到達してしまいますが、この小説の女主人公は家庭や自分のキャリアまでも投げ出すことはせず、表面的にはまっとうな生活を送っています。そして、相手の男のあまりの仕打ちにプライドを引き裂かれ、最後には自ら別れを切り出すのです。
結局、失った物は何もないのですね。内面的な変化は別として。
著者名のマルト・ブローというのは匿名であり、表紙の目隠しをしたブロンド女性も本人の写真。パリの弁護士会の中では同業者の中の女性の一人によく似ている、と証言があるようですし、この本はベストセラーになったそうですから、身内の人は気づいてるんじゃないのかなぁ。ま、そんなことどうでもいい話なんですが。
20世紀のフランスの文学界ではすでに著名な作家たちが匿名でポルノ小説を発表するのが流行し、読者の側も「これはあの人に違いない」と詮索するのも楽しみの一つだったそうです。
ピエール・ド・マンディアルグの「城の中のイギリス人」(読んだ)、アラン・ロブ=グリエ夫人(と、言われている)の「イマージュ」(これも読んだ)、ジョルジュ・バダイユの「眼球譚」(これは未読)等々...。でも、ほとんどSMなんですよね。
この本の中にも木の洗濯ばさみだの、”張り形"だの、"芸者の数珠玉"だの必殺アイテムが登場します。
どうでもいいような知識ばっかり増えてしまった。(汗)
素敵です。
バタイユ大好きですわ。
ruins-hatobaさんのブログもデカダンスなかほりがしますね。
バタイユ、本は手元にあるのですが、まだ読んでないのです。いい加減読破せねば。