-箪笥- by キム・ジウン
2005年 07月 26日
父(キム・ガプス)に連れられて久しぶりに我家に戻ってきた姉のスミ(イム・スジョン)と幼い妹のスヨン(ムン・グニョ)。冒頭のシーンでサナトリウムで治療を受けるスミのシーンがあるので、彼女が精神を病んで入院していたことは明らかにされています。
ソウル郊外だと思われる大邸宅。相当古い家だけれど、かなりお金がかかっていそうな部屋やインテリア。しかし、どこか冷え冷えとして重く湿った空気が流れています。
度が過ぎるくらいに仲のいいスミとスヨン。しかし、そんな彼女たちを待ち受けていたのは若くて美しい継母のウンジュ(ヨム・ジョンア)でした。
母親の死後、父の新しい妻となったウンジュは姉妹にとってはよそ者でしかなく、スミはウンジュを激しく毛嫌いし、事あるごとに反発します。姉とは対照的に継母の一挙一動に脅えるスヨン。
この家は異常さが充満しています。継母の言動や行動はとにかく突飛でエキセントリック。真夜中、とっくに放送終了したテレビをぼんやり眺めているし、食べ物は賞味期限が切れて腐った食べ物でいっぱい。妹の部屋にある箪笥の中は同じ服が何着もかけられている。
「なんでお父さんはこんな変な人と結婚なんかしたんだろう?」と首をかしげてしまいます。
真っ向から対立するスミにウンジュは「あなた達の今の母親はこの自分なんだ。死んだ母親はいくら呼んでも帰ってこない。」と高圧的に宣告します。
自分の寝室にある箪笥の中に何かの気配を感じ取った妹は姉の部屋に駆け込みます。
「箪笥が怖いの?」と訊ねるスミ。「何かが自分のベッドに入ってきた」と恐怖に震えながら答える妹を優しく抱きしめるスミもまた悪夢に悩まされることになるのです。眼前まで迫ってくる恐ろしい形相の女性。ねじ曲がった首(実母が首吊り自殺をしていた)、足の間から流れる血液。
そして、人を殺したらしい自分が血まみれの姿で森の中を歩いているリアルな夢...。
おとなしく無抵抗なスヨンに対する継母の虐待はエスカレートする一方。実母の写真を隠し持ち、自分の写真の顔を潰され、大事にしていた小鳥を殺された彼女にとって姉妹は憎悪の対象でしかありません。
その報復としてスヨンを箪笥に閉じこめてしまう。開けてはならない秘密が隠されている禁断の箪笥。泣き叫ぶ妹の声にようやく気づいたスミは彼女を救出した後、父にスヨンがどんな仕打ちを受けたか陳情します。
激昂している娘に向かって父は諌めるように言います。「いい加減にしろ。スヨンはもう死んでるんだよ。」
父がスミに向かってこんな台詞を言うシーンもありました。「箪笥のことはもう忘れるんだ。」
あの箪笥には一体何が...!?
妹の死体が入っているらしい袋から血が流れ、スミが箪笥の中にそれを発見するシーンもかなり怖いです。あらゆる謎が渦巻いて、一秒たりとも画面から目が離せません。
実はこの家に継母はいません。確かに父には愛人と呼べる存在の女性がいて、家を出入りしていたようでしたが。
スミが見ていた継母は実は自分自身。どうしてあんなに嫌っていた父の愛人に分裂した自分を投影させていたのかはわからないのですが。
その愛人は唯一、妹が箪笥の下敷きになって死にかけているのに、気づいていました。箪笥が倒れたのだから、スミにだって物音が聞こえたかも知れないのに。出かけようとしていたスミに嫌みを言われたので、愛人は妹の緊急事態を知らせることを止めます。「お前はこの瞬間を一生後悔することになるだろう。」という捨て台詞を吐いて。
韓国に伝わる有名な古典、「薔花紅蓮伝」は継母の陰謀で殺された二人の姉妹が亡霊となって、継母とその息子たちの悪行を政治家に訴える勧善懲悪の物語。
これまでに何度も映画化されていて、韓国人にとっては馴染みの深いお話なのだそうです。
「薔花紅蓮伝」に全く免疫のない我々と違い、韓国の人にとっては別の面白さがあるのかも知れません。
この映画はスピルバーグによってリメイクされることが決定しています。
「リング」のリメイク版は予想どおりいまいちでしたが、これは私としては興味津々です。どんなキャスティングになるのかも楽しみですね。
「箪笥」公式サイト
ちょっとエキセントリックではありますがこの映画を観た感想を自分も書いてます。よかったらPensiero! 別館Blog(http://pensiero.air-nifty.com/blog/2004/08/post_2.html)あるいはPensiero! 別館の「ひとりごと」コーナーを読んでくださいね。
「思春期の危うさ」という言葉に共感。
姉は実母も継母もそして妹さえもを排除したかったの知れません。ストーリー的には少々粗があるものの、いろんな解釈ができて面白い映画だと思います。