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「female」  新潮文庫

映像化されることを前提に、第一線で活躍中の女性作家5人の書き下ろしで構成された短編集、「female (フィーメイル)」。
『女性のエロス』をテーマに小池真理子、唯川恵、室井祐月、姫野カオルコ、及南アサ、という顔ぶれで、どれも読み応えがありました。
この中でmarikzioが特に印象に残った作品を紹介します。

「夜の舌先」 唯川恵
休暇を利用して、セブ島へとバカンスに出かけた独身OL、正子。
街の露店で目に止まった香炉。しかし、それを売っている老婆は「この香炉が目に入ったあなたは不幸な女だ。」と非情に宣告します。
老婆が言うには、この香炉は不思議な力を持っている。好きな相手の髪の毛を手に入れて、自分の毛髪と結び、この香炉で燃やしながら眠ると、夢の中でその相手と結ばれる、と正子に説明します。
まさか本気にしていたわけではないが、その話だけでも面白かったので、決して安くはない代金を払って日本に謎の香炉を持ち帰ります。
15年間勤務してきた職場は正子にとって決して居心地のいいところではなくなっていました。飲み会に誘われることもなくなり、同僚の男性社員に女として見られることもなくなったと、痛切に感じる毎日。
しかし、そんな正子が一人だけ気になる28歳の男性社員、浅山。彼女は浅山の髪の毛を拾い、自分の髪と一緒に謎の香炉で燃やしてみるのです。
浅山に抱かれるリアルな夢。「この香炉は本物だ」と知った彼女はそれから必死で浅山の髪の毛を集め、夜な夜な彼と愛を交わす、淫らな夢を見るようになります。
そして、自分を見つめる浅山の様子が不自然なのに、正子はある日気づきます。まさか、彼も自分と同じ夢を見ている...!?夢の中で好きな相手と結ばれる、というのはこういう事だったなんて!
しかし、運命は残酷。浅山は自分の後輩である若い女性社員と婚約を発表し、海外勤務まで決まってしまいます。それにひきかえ、正子は倉庫管理部へ左遷され、そこへ行った半年後には退職勧告をされることになっている...。
このお話、痛過ぎ。女性にとっては身につまされます。そして正子が最後にとった行動も救いようがない。
でも、ここがクライマックスで強烈な猛毒が準備されているのです。ご注意!
5つの作品の中ではこれが一番印象に残りました。

「桃」 姫野カオルコ
「桃はむずかしい」という書き出して始まるこの短編は直木賞候補作にもなった長編「ツ、イ、ラ、ク」のサイドストーリー。
若い教師と禁じられない愛に堕ちたヒロインが31歳になり、その誕生日のお祝いに自分に「桃」を買おう、と思いつきます。
桃を食べると途端に昔のある思い出が蘇ってしまう。だから桃は食べないようにしていたのに...。
「私たちはいやらしいことをした。」
新品のバスケットシューズが眩しい少女時代の私が恋人の部屋へ行く、回想シーンが衝撃的。桃を買おうか、買うまいか、ああでもない、こうでもないと悶々とする前半部分とのギャップに戸惑います。
これを映像化するのは難しかったでしょうね。実際、「桃」を担当した監督は著者の思惑どおり、散々苦しんだようです。
劇中で姫野先生ご自身が占い師役でカメオ出演しているそうなので、是非とも観たいと思っているんですけどねぇ。
個人的にはいきなり桃をモチーフに使っているのに異和感を持ちました。「桃」を独立した作品として見るぶんには大好きなんですが。
これは最近刊行された短編集のタイトルにもなっています。
短編集「桃」は「ツ、イ、ラ、ク」外伝作品集。これについてのレビューは近日中に投稿したいと思っています。

「僕が受験に成功したわけ」 及南アサ
映画のタイトルは「女神のかかと」になっていました。こっちの方が内容にあっていると思います。他の作品は30代〜40代の女性が主人公なのに、これは男の子が語り手です。それも思春期にも満たない小学6年生。
中学校受験を控える真吾は同級生でガールフレンドの森島奈月に無理やり誘われて彼女のマンションに行くことになります。
そこで見たものは全く異質な人物。彼女の母だと紹介された女性に真吾は仰天してしまいます。
自分の母親とは全然タイプが違う。その辺のお姉ちゃんみたいにお化粧をし、ネックレスをし、そして、そのミニスカートから伸びている脚と言ったら...!
少年が初めて異性に目覚める瞬間を描いている、というお話でしょうか?でも、そこは『女性のエロス』がテーマのアンソロジー、それだけで終わるはずがありません。
少年の様子に気づいた母親は「わかってるんだ、おばさん」と少年に言います。「奈月のパパもねえ、この足が好きだって。」
娘の目を盗んでの、少年に対するいたずら(挑発?)はどんどんエスカレート。
おかげで真吾の頭の中は奈月ママでいっぱいになり、成績は下降する一方。
「何か変なんだよな、最近のママ。何て言うか嫌らしい感じ」と女の子が真吾に打ち明ける場面が好きです。
本能的に嗅ぎつけちゃってるわけですね、女の勘というか。「こいつは油断ならない」って。例え自分の母親であっても。

同タイトルのオムニバス映画「female」は現在、全国的に公開中。
しかし、marikzioが住んでいる青森県では八戸しか上映予定がないらしい。この映画を観るために、そこまで行くほどの気力はありません。(T。T)
by marikzio | 2005-06-13 20:50 | Book | Comments(0)

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