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「殺人者の健康法」 アメリー・ノートン  柴田都志子訳

Bookカテゴリ第2弾はまたもや「畏れ慄いて」のアメリー・ノートン。
日本の企業でドジなOLだったベルギー女性がフランスで25歳の時に発表した文壇デビュー作、それが「Hygiene de L'assassin」(殺人者の健康法)でした。

83歳である世界的な大作家プレテスタ・タシュ。難病に冒され、死期が迫っているという噂が流れ、世界中のジャーナリストから単独インタビューの申し込みが殺到します。
22作の小説を発表し、ノーベル文学賞を受賞した、この作家は、しかし、多くの謎に満ちていました。肥満しきった体躯、その体に毛も生えておらず、声を除けば去勢された男の全てを備えていたという彼の異様な風貌。近代的なビルの1室に一人で暮らし、一日に二十本ものハバナ葉巻を吸い、朝から晩まで飽食に明け暮れていたおかげで、もう何年も前から歩行困難になっているような状態。そして、彼の書き溜められた作品は出版され続けているも、実は59歳の時に筆を折っていたのでした。

タシュに取材することを許されたのは一部の選ばれた記者たちでした。
しかし、その栄えある会見も当事者にとっては震え上がるようなおぞましい時間にしかなりませんでした。車椅子に座った、怪物のような巨体。食べ物に異常な執着心を示し、次々と浴びせる辛辣でグロテスクな毒舌の数々。記者は次第に気がおかしくなるような恐怖と吐き気を覚え、ほうほうのていで逃げ出します。
作家の前に次々と野心と緊張感を持った取材者がやってくるのですが、強引に論破され、あるいは途中からいきなり追い出されるなどして彼の前を無残に退散して行くことになるのです。

ある日、一人のマドモアゼルがやって来ました。他のジャーナリストと同じ権利を認められて彼のもとへ参上した若手記者。彼女は老作家の毒舌に微動だにせず、それどころか互角に激しい舌戦を繰り広げます。
タシュの発表作品を全部読んでいた、この女性記者は彼の未完の小説の謎に言及し、そこから「自分は童貞だ」と公言しているこの老作家の隠された秘密を徐々に炙り出して行くことになるのですが...。

対話形式で展開されていくサスペンス。それにしても何というボキャブラリー。強烈な毒を含んだ台詞が洪水のように紡ぎ出されて、これを25歳にして書き上げたとは圧巻です。当時のフランス文学界に激震が走ったというのもまさに納得。
しかし、最初の迫力満点な緊迫感にしては肝心の作家の秘密のエピソードがいかにもありがち、というかありきたりな感じもしました。大人になることを拒んだ歪んだ性愛。帯のコピーにある「一度読んだら忘れられない怖い話」というのはちょっと大げさな気がしなくもない。
されど、おそるべし、ノートン。ベストセラー作家としてのオーラはこの時すでに確立されていたのです。
ちなみに、この作品は戯曲化され、上演されています。
日本では翻訳されている作品が少ないけれど、彼女には多くの著書があり、新作が出るたびにベストセラーになっています。

以前このブログでも取り上げた歌手RoBERTをヒロインのモデルにした「Robert des nom propres 」、私、原著を持っています。日本語版は出ていません。
仏辞書プチ・ロワイヤルを片手に何とか読んでみようと挑戦したのですが、長らくほったらかしになっています。
ヒロインの母親は19才で妊娠し、父親になるはずだった男性と生まれてくる子どもの名前のつけ方を巡って口論になり、それがきっかけで夫を銃殺してしまう。そして自分も刑務所の中で出産した後、シーツで首つり自殺を図ります。取り残された赤ん坊は姉夫婦に引き取られ、バレリーナを目指すよう養育されるが...と、こんな内容だったように思います。
あのロベールにそんな壮絶な出生の秘密があったかどうかはわかりませんが、かなり目茶苦茶な内容のような気がします。(汗)
日本語訳出ないかなぁ。出ないでしょうねぇ。
by marikzio | 2005-01-27 23:22 | Book | Comments(0)

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