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-in-i- by Juliette Binoche and Akram Khan

先日、幕を閉じたフランス映画祭2009の団長を務めたジュリエット・ビノシュ。それと並行するように、振付家アクラム・カーンと組んだパフォーマンス「in-i」の日本公演がBUNKAMURAシアター・コクーンで上演されました。国際的な大女優がスクリーンの大画面の中ではなく、生身の肉体で目の前の舞台に降臨する、しかもコンテンポラリー・ダンスという斬新な試みとあっては、これは見逃すわけに行きません。最終日の昼の部めがけて渋谷の街に繰り出して参りました。
「in-i(イン・アイ)」とは"Inside-i"の省略形で「心の中」という意味だそうです。「愛とは何か」がテーマだそうですが、"自分自身と向き合うこと"が重要な鍵となっていそうです。
恋人役にアクラム・カーン。映画館の中での出会い、同棲を始めた男と女が、過去の女、人種の壁などの問題にぶつかり、そこに巻き起こる嫌悪や嫉妬、そして欲望を肉体を媒体にさらけ出す。
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舞台はいたってシンプル。背後に大きな壁があるだけで、登場するのもビノシュとカーンだけという文字通りの二人芝居。何の底上げもせず、まさにド直球勝負。こういうシンプルな演出って、相当素材がしっかりしていないと貧相になってしまいますが、アクラム・カーンは今、ヨーロッパで最も旬なアーチストの一人であり、本作の振り付けも彼自身によるもの。44歳のジュリエット・ビノシュが肉体の限界に挑戦して新境地を開いたこのステージはまさにエキサイティングでした。

-in-i-  by Juliette Binoche and Akram Khan_b0069502_20405998.jpg巨大な壁の背後から現れたビノシュとカーン。ビノシュは朱色のミニワンピース姿。自分の席はステージ前列に比較的近かったので彼女のお顔をはっきり拝むことが出来ました。強烈なライトに照らされつつも陰影のある彼女はやっぱり綺麗です。黒いショートヘアのイメージが強いビノシュですが、舞台では背中に届くぐらいのセミロングで、髪が長い方が少女っぽくて可愛いと思います。
カーンはスキンヘッドでダンサーらしく筋肉質な体つきをしてますが、結構小柄な人みたいで、並ぶとビノシュより背が低かったです。
「14歳の時、私は映画館に行った。20人くらいしか入れないような小さな劇場だった。そこで私はいい男がいないか廻りを探してみた」というビノシュ自身によるナレーションから始まります。肉声ではなかったので、「さすがに激しいダンスを踊りながら台詞は喋れないんだろうな」と思いましたが、その後で結構台詞を喋っていました。行く前まではダンス物、ということで言葉のハンディはないと思ったのですが、そういうわけではなかったですね。舞台の左右に字幕板が設置してありましたが、字幕を追うと二人のダンスから注意がそれてしまう。かえって字幕板なんてない方が集中できるのに、とも思いましたが、長くて複雑な台詞の場面だと言葉が理解できないと厳しい。
「前方に座っている黒髪でスーツ姿の男に私は目が釘付けになった」と語るところは吹き出しそうになりました。だって彼、黒髪どころか髪がないじゃんか。しかもスーツ姿じゃないし。
映画館の男に一目惚れした少女は彼が何者なのか知りたくて追跡開始。同じ電車に乗り込んだり、壁づたいに尾行したり。その辺のところをダンスで表現する手法がまた斬新。そして、壁をベットの床に見立ててベットシーン如きのようなものを展開するなど小道具なんてないに等しい状態から表現の幅を広げているのはさすが。ベットで男がうっかり「サラ」と口を滑らせてしまったことから二人の間に生まれる波紋。時に笑いの要素を交えながらも、異教徒である男の独白、自分にぴったりくる理想のパートナーを探し続けて来たのになかなか巡り会えない女のつぶやき、そして修羅場などめくるめく展開で最後まで目が離せませんでした。

-in-i-  by Juliette Binoche and Akram Khan_b0069502_20401632.jpg

ビノシュの体は研ぎ澄まされたダンサーのそれではなく、丸みを帯びた女性らしい体型。ダンス自体もさほど上手いとは思いませんでしたが、体はとても柔らかくて44歳とは思えないアクロバティックな動きを見せてくれます。ほんと二人とも何度もぶつかりあっては飛ばされてて、体中アザだらけなのではないかと思います。女優さんなのに、いいんでしょうか?
パートナーのアクラム・カーンはバングラディシュ系の両親を持つ。「自分はイスラム教徒だから"サ"の音に心惹かれる。だから"サラ"のことも愛した」というような台詞が出てきます。劇中で女を「白人め!」と罵る場面があったり肌の色と宗教もまた二人の間に横たわる溝の部分として表現されています。
自分が度肝を抜かれた場面は、ビノシュが壁に背中をくっつけたまま宙に浮いてしまったところ。一体どんな仕掛けになっているのでしょうか?ひょっとして、実はひそかにお尻が入る隙間があって、そこに腰掛けているとか?でも、壁の表面はつるつるだったし。ビノシュが長い台詞を言っている間、壁が知らないうちに客席側に移動していて、ビノシュが我々の前にぐーっと迫って来ました。「うぉおおおおおお、ビノシュがこんな近くに」
両脚をバタバタさせてもがき苦しむビノシュ。ああ、そうか彼女は男に首を絞められて足が浮いていたのか!そうかと思うと、カーンが逆さまになって壁にくっつくという忍者ハットリ君みたいな技をお披露目したり。
こんな風にシンプルでありながらもしっかり仕込みがされている演出。それに加えて音楽の使い方が素晴らしい。恋愛と内なる自分、という抽象的かつ普遍的なテーマにふさわしい選曲で、彼らの心理描写により広がりを与えてます。
「二人のダンスをずっとこのまま見ていたい」と思いましたが、さすがに体力の限界というものがあります。ショーは70分くらいでした。当然「アンコール!」の声があがりましたが、二人は手をつないで何度も私たちの前を行ったり来たりするだけでした。もう1曲ぐらい踊ってくれないかな?とも思いましたが、やっぱり、それはありませんでしたね。
ほんとにあっと言う間で夢のような時間。ありがとうビノシュ、ありがとうカーン。目眩がするほどカッコ良かったです。
Commented by jasouyouqui at 2009-04-01 20:29 x
marikzioさん、こんばんは♪

ぬぬ~ん。こうやってレポート読むと、い、行けばよかった~と激しく
後悔中。全ての公演が終わった後にDVDになって出ないかなぁと
思いましたが多分ないでしょう。
舞台だからこその作品ですもんね。
資料集めなら今からでも遅くはないけど。
Commented by marikzio at 2009-04-02 21:47
そう、あれは観る価値ありましたよ♪
ビノシュ、クールでした。そして可愛い!
これは海外遠征して観に行くとか...。
by marikzio | 2009-03-17 20:50 | Other Music | Comments(2)

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